ぼくらはみんな生きていく

医療的ケア児の娘のこと。医療、福祉、母の頭の中のあれこれを書くブログ。

お疲れ様でしたとありがとうを、愛をこめて。

「Tさんが今日を最後に辞めるって!」

 

今日から娘のレスパイト。

入院させたあと看護師さんと引き継ぎと世間話をして、いつも病院を出るのはお昼少し前。車に乗り込み出発前に在宅ワーク中の夫へ今から帰る連絡するのがいつもの流れ。

今日も病院を出る前にいつものLINEのやりとりを夫と交わし、お昼をどうするか相談したあと学校保護者のグループLINEに未読があるのに気づいた。たまたま今日直接Tさんと出会った友達が話を聞いたとのことだった。

 

Tさんが辞める?今日で?

連絡をくれた友達だけでなく先生方もそれを知ったのは今朝だったという。

夫には前言撤回、すまんお昼は自力でなんとかしてくれ私は学校へ行かねばならん今すぐに、とだけLINEをすっとばしその足で学校へ車を走らせた。

 

Tさんは学校看護師の一人で、娘が入学した時には既に学校看護師さんとして働かれていて、いつもシャンと伸びた背筋で早足で廊下を歩く姿が格好良くて印象的だった。

 

娘の養護学校は県随一のマンモス校で、医療的ケア児の数もとても多い。医療的ケアの必要な子供の数は年々増え、ケアの中身もだんだんと重くなっていく。看護師さん達の抱える業務量も県内随一だと思う。

広い校舎のたくさんの教室に子供たちがいて、恵まれているとは言い難い人員体制で看護師さん達は毎日の医療的ケアをこなしてくれている。毎日の学校生活には看護師さん同士の連携と先生達との連携どちらも不可欠で、先生達は看護師さんへ、看護師さん達は先生達へ、お互いへの尊重と尊敬を持って協力し合って保護者の声にも耳を傾け、いつも子供達を真ん中に、手を取り合ってくれていた。

先生方と看護師さん達のいい関係がある養護学校の今の体制は、長い時間をかけて看護師さんと先生達が一緒になって築きあげてくれたものだ、と色んな人が口々に言う。そしてTさんはそれを築いてくれた人のひとりだ。

 

異なる立場の人たちが手を取り合うということはなかなかに難しい。それぞれの立場からそれぞれに大切に思うことがあればあるほどに

、それを尊重しあい理解し合って手を取り合うことは生半可でできることではないと思う。

それを、築き上げてくれた人が、いなくなってしまう。

 

娘の体調が大きく変わって気管切開が必要かもしれない、となった時の主治医の先生との面談も、実際に気管切開をしたあと生活が変わることになったその後も、Tさんは病院へ足を運んでくれた。

気管切開後呑気性がひどくなったあとあれやこれやとケアが増えたあとも、しんどさを抱えながら毎日を過ごさなければならない時も

「大丈夫!」

学校で過ごせばいい。どんな時も、いつも、そう言ってくれた。

Tさんの言葉通り娘は歳とともにかわっていく体の状態やそれに合わせた手術や増えていくケアをどんなにたくさん抱えてもいつも「大丈夫」だった。学校看護師さん達が、Tさんがいてくれたからやのに。

 

学校へついたところで廊下にいた先生にTさんはどこにいるか尋ねるとそこまで走っていった。

「Tさぁん!!」と考えなしにドアを開けると同時に叫んだら何か話し合いの最中で、ああしまった、と思ったけど、みんな少し驚いたあと笑って察してくれて、Tさんは廊下に出てきてくれた。ほんとすいません。

 

何から言ったらいいのかわからなくて、なんで、とか、いつから、とか順番に少しずつ聞いて、8年分の感謝とかを全部伝えているうちにだんだん我慢してた涙が止まらなくなってしまった。さみしい、さみしい、さみしい。

めそめそする私にTさんは

 

「この学校は大丈夫。先生達も看護師のことを思ってくれているし、一緒になって子供達のためにやれてるいいチームで、これは誇っていい事だって思ってる。」

それから

「お母さん達の頑張りにはいつも力をもらってきたし、ここにいたらいつも私は私でいられた気がする。」

そうも言ってくれて

「また会えるよ!」

って、笑ってくれた。

 

新しい場所でも、同じような子供達のために働いてくれるそうで、でも、自分にできるかな、と少しの不安があるというTさんに

「それはもう絶対、大丈夫です。Tさんは大丈夫。」

って全力で伝えた。

それから、今までずっとたくさんお世話になって感謝しかなくて、でも最後に

「何も言わずにいなくなろうとしたことだけは、初めて、Tさんに怒ってます。」

って伝えたら、「怒られちゃった」って言って笑った。

 

話し終えたら看護師さんの仕事用エプロンをつけて、ファイルを抱えてTさんは走っていった。今日は午後から卒業式。卒業する子供達と一緒にTさんも今日、学校を卒業していった。

 

 

大丈夫。また会える。

学校の子供達も、今まで築き上げてきたいいチームのみんなと、きっと大丈夫。春からはまた別の場所で。

 

Tさんに、お疲れ様でしたと、ありがとうを。愛を込めて。

f:id:megumeimusic:20210312232541j:image